2020.07.07
その他【イベントレポート】「リーダーシップを科学する」MBA×歯科医師の園延先生の3つの流儀とは?
6月22日に「3 RULES 明日からできる!〜園延先生の流儀〜」と題し開催されたオンラインセミナーの様子をお届けします。
今回は、経営学を学ぶために歯科医師として初めてグロービス経営大学院にてMBAを取得した園延先生に、都内で自費率60%以上の歯科医院を経営する際の考えや姿勢などについて伺いました。
【登壇者】
医療法人社団 SDC
理事長 園延 昌志先生
【モデレーター】
角 祥太郎 先生
株式会社DentaLight
CEO 藤久保 元希
全ては、「コアパーパス」ファースト
藤久保:今日は僕がかねてからお話しを伺いたかった園延先生に、ぜひとも歯科医院経営をはじめ、園延先生がそもそも普段から生きる上で大切にしている3つのルール、「3RULES」を伺いたくお時間をいただきました。個人的な話をすると、僕は現在グロービス経営大学院というビジネススクールに通っているのですが、なんと園延先生は歯科医師で初めてこのスクールを卒業されたそうですね。
園延先生:2014年に卒業したので、もう6年経ってしまいました。
藤久保:僕自身がそこに通っているからこそ、歯科医師としての園延先生がビジネススクールに通うことでどのようなことを身につけられたのかとても気になっています。今日はよろしくお願いします。
さっそくなのですが、先生は自費型の歯科医院を白金高輪に開業されましたよね。まずはそのクリニックの運営体制や経営状況などについて簡単にお教えいただけますか?
園延先生:規模でいうと法人で、社員は40人弱です。「子どもの歯医者さん」「大人向け」「訪問」の3つの事業があります。全体の自費率でいくと6割程度かと思います。この前提をみなさんに共有しておかないと、このセミナーを聞いてくれた方が「うちとは規模が違う」「うちは都内じゃないから」みたいに、自分ごととして受けとめてくれなくなってしまうかもしれませんよね。
藤久保:前提の共有はまさにグロービスの基本ですね。ありがとうございます。さて、それではまず1つ目のルールについてですが。
角先生:事前に伺ってましたが、「コアパーパスファースト」ですね。そもそも「コアパーパス」ってどういうことでしょうか?
園延先生:パーパスは「目的」のことです。要するに「自分が一番大切にしている判断基準のこと」です。それこそ現在はコロナの影響を受けている時期ですが、このような有事の時の判断っていろいろと迷うことが多いんですよ。そういう時にあらためて「自分って何を大切にしているんだっけ」っていう判断基準になるもの、いわば拠り所のようなものがコアパーパスですね。
なにをやれば成功するのか、どうすれば失敗しないのかなんて誰にもわからない時代じゃないですか。そういう時代だからこそ、自分でなにかを選択しなければならない時に、そのような判断基準を持つことができるかどうかが大切だと思っています。
角先生:それでいうと、やっぱり有事のときのリーダーシップは、今の自分の行動に納得感を持つことがすごく重要だと思ってます。結果を気にしちゃうとなにも行動できなくなることってあると思うんですが、自分の中でパーパスを持ててると、いざ有事の時でも納得感を持って前進できるようになると思うんですよね。
園延先生:本当はセミナーを聞いてくださっている他の医院長の方ともディスカッションしたかったことがあるんです。都内で自費型のクリニックを経営していて、コロナを受けて営業を縮小するか閉じるかっていうところをトップとして判断しなきゃいけなかったと思うんですが、ぶっちゃけ何が正しかったのかまだ分からない気がするんですよね。
「社員の安全のために閉める」というのも正しいし、「雇用を守るために開ける」というのも正しいと思う。
角先生:僕も同じことを考えてましたが、基本的に有事の時って、組織に野党は要らないと思うんです。スタッフの顔色を伺うのっていうのは有事の時には必要なくて、リーダーシップを発揮して、クリニックのための意思決定ができるかどうかが重要かなと。
院長ともともと意見が合わなかったスタッフはもっと意見が合わなくなるだろうし、意見が合ったスタッフはもともと合ってたということが浮き彫りになる良いタイミングなんじゃないかなって。
藤久保:それでいうと、コロナのような有事の時に、どのような意識を持たれていましたか?
園延先生:うちはコロナを受けて、患者さんの受け入れを縮小してたんですが、売上は5割以下になったんですよ。でも固定費も結構かかってたし、この状態が数ヶ月続いたらキャッシュアウトするなと考えた時に、急に怖くなったんですよね。その時に「まずは会社を守らなきゃ」、あとは「とにかく雇用を守ることも大事だ」っていう自分の考えと向き合うことになりました。
でも、仮に本当にキャッシュアウトして倒産したとしたら、それは「そもそも社会から必要とされていなかったクリニックだった」という結果でしかないなとも考えられます。逆に言うと、社会にとって本当に大事な価値を出していれば、結果として存続するのが自然の成り行きだと思います。
角先生:めちゃめちゃ広いところまで意識向けてますね。
園延先生:でも冷静に、「雇用を守るって、誰のために?」という考えも持ってて。もしも「雇用を守らなければならない」ということを拠り所に経営をしていたら、それってちょっとエゴだと思うんです。「うちの社員はうちじゃなきゃ幸せになれない」なんて誰が決めたんですか、っていう。何様の立場で社員の人生を背負おうとしてるんですか、みたいな。その考えに行き着いた時に、「会社を守りたい」「雇用を守りたい」っていうのは僕のエゴだったんだな、じゃあ守らなくてもいいや、っていう考えにシフトしていったんですよね。
角先生:なんかめちゃめちゃすごいこと言ってませんか?
園延先生:それで、それらを守らなくてもいいんだ、ってなった時に、そこでようやく「じゃあ自分は何を大事にしたいんだろう?」とコアの部分を突き詰めていくようになって、僕にとってのコアは「自分の真実を分かち合っていきたい」ということだと気づきました。
藤久保:真実を分かち合う、とは?
園延先生:自分の真実を分かち合うって完全に自利なんですけど、その結果として周りの人の役に立つことができれば良いし、もしも役に立てなければそもそもその人って僕と一緒に幸せになる人じゃなかったかもしれない。
角先生:自利と利他ですね。自分が満たされて、初めて他人にも優しくなれるというか。
共感とニーズを満たすことは、分ける
角先生:それでは2つ目のルール、「共感とニーズを満たすことは、分ける」ということについて。
園延先生:これは僕にとっての「リーダーシップとは」を見つめ直す時に役に立ってる考えです。院長という立場を持った人って、いろんな問題を解決することが役割として課されるじゃないですか。それこそ、コロナを受けても「患者のために営業は縮小しながらも続ける」という判断をしたとして、そこにスタッフから「こういう状況だし、怖いから閉めて欲しい」という声が出てきたら対立するじゃないですか。
角先生:ドキッとしますよね。
園延先生:対立するのであれば、そもそもそういう声って聞きたくなくなるじゃないですか。ただ、その声を聞くこと自体に「共感」はできるな、と。どういう部分に不安を抱えてるのか、なにが心配なのかっていうのを聞いて、共感していくことはできる。でもクリニックのトップとしては、スタッフの「クリニックを閉めて欲しい」という要望、つまり「ニーズを満たす」ことはできないよ、ってなる。ごめんねって。
角先生:これ、僕も子供に対してやってるかもしれません。「お菓子食いたいのは分かるけど、いま食うんじゃねぇ」とか言いますし。
園延先生:スタッフとしては、トップが自分の話に対して共感してくれたという体験が記憶に残るんです。共感せずに最初からニーズの解決に向けた議論のような話をし始めたら、スタッフによっては怯えてしまうこともある。
藤久保:そういう思考の切り替えって、トレーニングすればできるようになるものなんでしょうか。
園延先生:知ってる先生もいらっしゃるかもしれませんが、NVC(Nonviolent Communication)っていうスキルを身につけるようにしました。
角先生:結構みんな問診とか初診の患者さんに対して使ってますよね。まず共感して、「とはいえこうなんです」っていう。これ、僕は患者さんを相手にする時は意識できてる気がするんですが、確かに職場のコミュニケーションの時はあまり意識できてなかった気がする。
意志決定とコミュニケーションは、分ける
角先生:この話って、3つ目のルールの「意思決定とコミュニケーションを分ける」ということにも繋がってくるかなと思うんですが。
園延先生:これは組織におけるほとんどの問題って結局はコミュニケーションが原因ということで、たとえばコロナを受けて「営業を縮小する」という意思決定自体が問題なんじゃなくて、それをどういうタイミングでどう伝えたのかっていうプロセス部分がポイントだと思うんです。
角先生:一般社会もそんな気がしますね。マスコミって事実の一部しか報道しないし、場合によってはねじ曲げて報道することもあるから、世間の反応も荒くなる。
園延先生:それこそ安倍総理だったり小池さんだったり、そこに意思決定があるわけじゃないですか。それを国民にどう伝えるのか、っていうコミュニケーションの部分がないがしろになってるから、なんか響いてこないというか。逆に言うと、リーダーシップが良いと言われるような他の国のトップの伝え方って、語りかけて共感を促すような印象があります。
角先生:めちゃめちゃシンプルな話ですよね。有事の時って特にリーダーシップ執らなきゃいけないんだけど、場合によっては意思決定の変更をしなきゃいけなくなる時もあって、そうするとスタッフからは「また院長の言ってることが変わった」みたいに言われてしまうこともある気がして。でも、これも結局はコミュニケーションのミスというだけであって、自分の意思決定が全否定されたわけではないんですよね。
藤久保:そして心地の良いスタッフが残っていく。
角先生:そうですね。
園延先生:それでいうと、離職率に関してはそんなには気にしてないんですよね。僕にとっては、それよりも自分や自分に賛同してくれるスタッフたちと合っている人と一緒に仕事をするほうが大事なんです。
角先生:確かにそうですよね。今現状のスタッフがどれだけちゃんと重ね合ってるかってことの方が大事ですよね。
園延先生:たぶん、それが私の歯科医院経営にとって、より大事になる感じがしています。
まとめ
園延先生:やはり、フラットに本音で生きることがとても大事で、3RULESの一番重要な「コアパーパス」があって、その他の2つというのが連動している形ですね。
コロナウイルスが起きたことで、改めて、歯科医院だけではなく、私自身を見つめ直すきっかけになりました。
今日はありがとうございました。
今回は園延先生が経営において大切にしている「3RULES」についてお話しを伺いましたが、まずはコアパーパスとして「真実を分かち合う」ということを大切にしつつ、そのためにスタッフとは「共感とニーズの充足を分けて」、「意思決定とコミュニケーションを分けて考え」て接することで、組織が育つように好循環を生み出されていました。
園延先生のように、自分を客観視して科学的に「リーダーシップ」を捉えることが、歯科業界全体の活性化にも繋がっていくと思います。