2022.06.30
働き方・人事歯科衛生士のキャリアアップ〜自分の好きと医院の成長に重なる部分を見つけよう〜
歯科医院で働く歯科衛生士さんにとって、「キャリアアップ」というと具体的にどのようなことをイメージしますか?認定歯科衛生士などの資格を取得すること…?主任などの職位につくこと…?
大規模法人や特に人材育成に力を入れている医院であれば教育制度や評価制度が整っているかもしれません。しかし多くの医院では、キャリアアップしたいと思ったら自身で調べて考えて行動しなければならず、なかなか一歩を踏み出せない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、キャリアアップを考える歯科衛生士さんに是非知ってもらいたいことをまとめました。
自分の好きと医院の成長に重なる部分を見つけよう
キャリアアップってなんだろう
キャリアップとは一般的に「より高いスキルを身につけて、経歴を高めること」と言われますが、歯科医院に勤務する歯科衛生士にとってのキャリアアップとは具体的にどんなことが考えられるでしょうか。下図に大まかにまとめました。
ここで整理しておきたいのが、歯科医院で臨床に携わり続ける場合、大きく分けて特定分野のスペシャリストになる(歯科医師でいう専門医のような)、幅広い分野をカバーできる臨床家になる(歯科医師でいうGPのような)、医院のマネジメントに携わるといったことが考えられるということです。同時に複数の役割や活動の場を持つ場合もあります。
ポータブルスキルを意識する
歯科衛生士さんは、最初に就職した医院でずっと勤め続けるという方は少なく(参考:日本歯科衛生士会 勤務実態調査)、数軒の医院で勤務経験がある方が多くいらっしゃいます。そこで意識してほしいのが「ポータブルスキル」です。その医院でしか役立たないことではなく、どの医院でも役立てられる、あるいは医院以外の職場でも社会人として様々な場面で活かせるスキルに着目することが大切です。
20%は歯科以外のことを学ぶ・取り組む
皆さんは「Googleの20%ルール」をご存じでしょうか。Googleでは、業務時間の20%を普段の業務とは異なる業務にあてて良いという制度があります。
歯科衛生士さんの場合、歯科雑誌を読んで知識をアップデートしたり、セミナー受講や相互実習を通じて臨床技術を磨くことに一生懸命取り組まれている方は多いと思います。それはとても素晴らしいことで、今後も大切にすべきことなのですが、是非歯科以外のことを学んだり取り組む時間も設けることをおすすめします。歯科というクローズドな世界で働いているからこそ、歯科以外のことを学ぶことで、患者さんの目線に立ち返ることができたり、医院の成長に革新的なアイデアが得られることがあります。また、他の業界で当たり前に取り入れられていることを歯科に掛け算することで新しい取り組みをするきっかけにもなるかもしれません。
実際、自分の好きなことや得意なことで、医院の成長にも活かせそうなことを見つけて取り組めると、毎日がより楽しくなり、やりきった時の達成感は自信に繋がります。なかなか勤務時間内で普段の業務以外のことをするのは難しい場合が多いと思いますが、是非歯科医院でもそのような時間や機会を設けてくれると嬉しいですね。
認定歯科衛生士制度
この章では、具体的なキャリアアップの一例として、認定歯科衛生士等の資格についてどのようなものがあるのかご紹介します。
①日本歯科衛生士会の認定歯科衛生士
認定歯科衛生士について(日本歯科衛生士会ホームページ)
https://www.jdha.or.jp/learning/ninteidh.html
②その他学会の認定歯科衛生士
一般的に認知度が高いと思われる資格を下の表にまとめました。
認定歯科衛生士資格の取得に限らず、各学会の学術大会等に参加して情報収集や他の参加者と交流することもできます。さらに、口頭発表やポスター発表をすることでフィードバックを得たり実績を積むこと、あるいは委員会等に所属して活動することもできます。
その他にも、下記のような制度もありますので、ご興味のある方は各学会のページでご確認ください。
日本顎顔面補綴学会 認定歯科衛生士
日本顕微鏡歯科学会 認定歯科衛生士
日本口腔感染症学会 院内感染予防対策認定歯科衛生士
日本顎咬合学会 認定歯科衛生士
日本障害者歯科学会 認定歯科衛生士・指導歯科衛生士
日本スポーツ歯科学会 認定スポーツデンタルハイジニスト
ジャパンオーラルヘルス学会 ドックコーディネーター
ジャパンオーラルヘルス学会 予防歯科認定歯科衛生士
日本歯科麻酔学会 認定歯科衛生士
日本口腔衛生学会 認定歯科衛生士(地域歯科保健 / 口腔保健管理)
日本ヘルスケア歯科学会 認定歯科衛生士
日本アンチエイジング歯科学会 認定歯科衛生士
(同学会にはサプリメントアドバイザー、ビューティーアドバイザー、メディカルアロマコーディネーター、バクテリアセラピスト、ホワイトニングエキスパート、ペリオフードコーディネーターもある)
日本口腔リハビリテーション学会 認定歯科衛生士
日本歯科薬物療法学会 認定歯科衛生士
日本全身咬合学会 認定歯科衛生士
日本訪問歯科協会 認定訪問歯科衛生士
日本有病者歯科医療学会 認定歯科衛生士
日本臨床歯科学会 認定歯科衛生士 ※SJCD
日本歯科TC協会 トリートメントコーディネーター Activity Leader / Basic Instructor / Advanced Instructor / Master
※歯科助手も取得可能
③歯科の学会以外の制度
日本口腔ケア学会 口腔ケア指導者 / 1級 / 2級 / 3級 / 4級 / 5級
(同学会には口腔ケア認定師もある)
日本医療機器学会 滅菌技士(第1種 / 第2種)
日本摂食嚥下リハビリテーション学会 認定士
日本咀嚼学会 健康咀嚼指導士
国際食育士協会 歯科食育士
日本食育インストラクター協会 食育インストラクター1級 / 2級 / 3級 / 4級 / プライマリー
他にも医療事務や接遇など、様々な資格が存在します。また、歯科という枠組みを一度外して医療・保健分野の他職種とともに学ぶ機会をつくることでも、新たな視点を得られそうですね。
大学院進学という選択肢も
認定歯科衛生士等の資格取得以外にも、大学院に進学するという選択肢もあります。4年制大学を卒業していない場合でも、個別の審査で出願できる学校もあります。大学院を修了すると修士号・博士号といった学位が取得できます。
大学院では自分の研究テーマを明確にしておく必要があり、出願前に実際に研究室に訪問しておくのが一般的です。また専攻によって取得できる学位にも違いがあります。研究以外にも、交換留学や海外研修の機会がある大学院もあります。
時間や費用の面でも、大学院に通うにはそれなりの覚悟が必要ですが、働きながらでも通える社会人大学院や、大学院に通わず論文を提出して審査に合格することで取得できる論文博士という選択肢もあります。
繰り返しになりますが、大切なのは「大学院で何を研究したいか、どの分野の専門家になりたいか」を考え、その希望が叶えられそうな大学院、研究室を選ぶことです。ご興味のある方は、大学院のホームページ等で研究室ごとの研究テーマや実績をチェックしてみることをおすすめします。
高度専門医療職として今後のキャリアを考えたい方は、是非大学院進学を検討してみてください。歯科衛生士養成機関の教員や研究職といった道もひらけます。
また、キャリアアップというよりリカレント教育※という言葉がしっくりくるかもしれませんが、大学の公開講座や通信制の課程を利用してみるのもいいですね。
※リカレント教育:学校教育からいったん離れて社会に出た後も、それぞれの人の必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すこと。リカレント教育が「仕事に生かすための知識やスキルを学ぶ」ことを指すのに対し、生涯学習は「生涯にわたり行うあらゆる学習」のことで、仕事に無関係なことや生きがいに通じる内容も含まれます。
社会人の大学等での学びを応援するサイト「マナパス」(文部科学省)
https://manapass.jp/
公益財団法人 富徳会 歯科衛生学助成および歯科衛生教育学助成(40歳以下、20万円)
http://www.isi-sys.net/futokukai/index.html
また、学会等で優秀な発表を行った者にスポンサー企業から副賞として賞金が贈られることもあります。
日本歯周病学会 ベストデンタルハイジニスト賞(TAKARA BELMONT Award)副賞5万円
https://www.perio.jp/member/award/hygienist.shtml
キャリアアップしたら収入は増える?
認定歯科衛生士や学位を理由に、給与に反映されるかは歯科医院によって異なっており、また業務範囲も特別広くなるという訳ではありません。
日本歯周病学会認定歯科衛生士を対象にした調査(2019年の結果)では、認定後に変わったこととして、自信がついた61.5%、他の歯科衛生士の見る目36.3%など、自身と周囲の意識的な変化がある方が多かったようです。一方で昇給したという方は26%でした。
海外に目をむけてみると、アメリカではAdvanced dental hygiene practitionersというライセンスがあり、主に十分な歯科医療を受けられない地域において、通常の歯科衛生士業務に加えて診断・処方・低侵襲な修復処置などを行えるものです。修士相当の教育を受けることが必要とされています。
日本の新しい認定看護師制度では特定行為研修が包含されることになり、果たす役割自体が拡大しています。また、専門看護師では修士課程の修了が必要です。そして、診療報酬の算定にも専門看護師・認定看護師の配置が関係しているものがあります。ある調査では、認定看護師の73.5%が主任か師長の職位にあること、自由記載の結果からは給料への反映や何かしらの評価の提示を望んでいることがわかっています。
歯科医院の大部分は小規模経営であり、企業や大きな病院とは違い、資格や学位を収入に直結することは難しいかもしれません。しかし、学び続けることは、医院の成長にも、自身の可能性を広げることにも必ず繋がり、歯科医療の発展に寄与するものです。
まとめ
本記事では主に認定歯科衛生士と大学院進学について触れましたが、資格や学位にこだわらず、もっと気軽にさまざまなセミナーや学会に参加してみるのもいいかもしれません。そのなかで興味があるもの、自分に向いていると思えるものが見つかったら、より深く学んでいくのもいいでしょう。
地元で学べる場が少なくても、オンライン学習やe-learningを利用することもできますね。歯科では企業やスタディグループ等がオンラインセミナーを開催しています。歯科以外の分野では数多くのオンライン学習サイトがあります。
オンライン学習サイトの一例:Udemy, Schoo, gacco
今回取り上げた中で、自分が”興味”のあるもの、これ”好き”だな、というものはありましたか?現時点で必ずしも”得意”である必要はありません。興味がある、好きであるということは、取り組み続ける強いモチベーションになり、やがて”得意”なことになります。
歯科衛生士さんのなかには、スタディグループを立ち上げたり、企業と製品を共同開発する方もいらっしゃいます。フリーランスとして活躍して、講演活動を数多くこなされる方もいますね。自分にはハードルが高い…と思われるかもしれませんが、なりたい自分に向けてひとつずつキャリアを積み重ねることが大切です。
もし、忙しい毎日を過ごすうちにキャリアアップってなんだっけ?と迷ってしまったら、マクロの視点では世の中に必要とされていること、ミクロの視点ではひとりの患者さんの悩みや課題などから問題提起して、それを解決するために自分にできることはなんだろう?と考えてみてくださいね!
<あとがき>
弊社には様々なバックグラウンドを持つ歯科衛生士メンバーが在籍しています。
本記事が歯科衛生士としての日々のモチベーションや、学び続けることで将来様々な道へ進む選択肢があることを少しでも知っていただくきっかけとなったら嬉しく思います。
デンタライトのスタッフ一同、歯科衛生士の皆さんのキャリアアップを応援しています!