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歯科医院で押さえておきたい労務管理の5つのポイント

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【労働時間問題①】着替えの時間は労働時間?

地域の歯科医院でほぼ毎回上位にランクインすると言っても過言ではない問題として着替えの時間は労働時間として扱われるのでしょうか?という問題です。 

まず、労働時間とは、使用者(今回は歯科医院の院長先生など)の指揮命令下に置かれた状態と言います。 

歯科医院で指定するユニフォームに着替えるという行為は歯科医院で行う業務に従事するために行われる一般的な準備行為であり、指揮命令下にあるとまでは言えないのではないか?との意見もありあす。そして、事実上雑談と同時並行で着替えが行われることも多いでしょう。

そして私服勤務を認めている企業も増えてきたとは言え、サラリーマンであればスーツの着用が一般的であり、自宅でスーツに着替える時間は労働時間とは言えません。他方、多くの歯科医院で家からユニフォームの着用を許可している場合は少ないでしょう。

では、どう考えるべきか悩んだ場合に以下の最高裁判例が参考になります。判例を読み込む際の注意点としては、全く同じ背景での判例ではないということです。業種の違いを始め異なった部分があるために、画一的にあてはめることは逆に視野を狭めることにもなりますので注意が必要です。

 

参考判例:三菱重工長崎乗船所事件

就業規則の変更が行われ業務を開始するにあたり、作業服や保護具等の装着を義務付けられました。そして、この装着は所定の更衣所で行うこととされ、これを怠ると懲戒処分や就業拒否、成績査定に反映されて賃金の減額に繋がる場合があるとされました。

当然、就業規則の変更により、更衣室での着替えや保護具の装着は所定労働時間外に行うことを余儀なくされました。

判決では、「作業に当たり、作業服や保護具等の装着を会社から義務付けられ、また、この装着は事業所内の更衣所で行うものとされていたから、この装着、更衣所から準備体操場までの移動時間は、会社の指揮命令下に置かれたものと評価することができる」とされました。

 

歯科医院の実態に置き換えると

着替えは歯科医院内で行われることが多く、事業所内の更衣室で行われるものと合致すると言えます。また、ユニフォームについても事実上会社からの義務付けと考えられるために労働時間と評価されることが高いと言えます。 

反対に労働時間と評価されない場合とはどのようケースでしょうか?「必ず10分前に出勤し、着替えを完了しておいてください」というような「業務命令」を出してしまうと労働時間と評価されます。

しかし、歯科医院という患者様の大事な歯を扱う極めて高度かつ繊細な業務にあたり、全く何も言わない労務管理では始業時間と密接した時間に「駆け込み出勤」するような労働者も出てくることと考えます。そうなると、言うまでもなく始業時間以後に着替えを行うような状態となり、業務に支障をきたすことでしょう。 

よって、社会人のマナーとして10分前行動を徹底しましょうという点にフォーカスをあてて労務管理を行っていくことが適切と考えます。

 

それでも難しい場合の対応例

各々の労働者の申告により管理する場合があります。

各々の労働の申告の場合は、通常時に5分で着替え終わる労働者もいれば15分かかる労働者もいます。その場合に着替えが遅い方に多くの給与を払うのか?という問題が出てきます。そこで一律(例えば10分)に労働時間としてカウントする歯科医院もあります。

労務管理のポイントとしては、イレギュラーがあった場合にどのように対応しているか?が大切です。例えばインフルエンザ流行期や新型コロナウイルスへの対策として保護具の装着が重装備となった場合に着替え時間は(旧来より)延びる可能性が高まります。その場合は実態を踏まえて再考する機会を設けることが重要です。

 

【労働時間問題②】カルテでの情報収集時間は労働時間?

まずは、労働時間に該当する可能性が高い労務管理を確認しましょう。
・始業前に準備をしなければ業務に支障をきたす
・始業前に情報収集を行わなければ事実上他に準備する時間が設けられていない
などです。

そして、明確に院長先生からの命令ではなかったとしてもそれを行わなければ業務に支障をきたす可能性が高く、それを黙認されていた場合は「時間外労働の黙示の指示」と評価される可能性が高まります。よって、30分以上前に出勤しての準備行為は禁止するなど、一定のルールを設けることが一案です。

 

【採用問題】面接から採用に至るまでの注意点とは?

一般企業ではWeb面接が一般化してきました。それでも最終面接は対面で行うなど、対面ゼロとまでは言えません。また、歯科医院の場合、まだWeb面接が導入できていない場合も少なくありません。対面であってもWebであっても前提として、歯科医院側が求職者を見ていると同時に相手からも見られているという意識を忘れてはなりません。

特に地域密着型の歯科医院の場合、面接で上から目線での対応はレピュテーションリスクの一因にもなりかねません。また、求職者として複数面接を受けている場合も多く、前述のような態度の場合、真っ先に対象外とされてしまうこともあり得ます。

他の対策としては、是非採用したいとなった場合には、速めに連絡を入れることが大切です。あまりにも時間が空きすぎてしまうと求職者目線として、あまり歓迎されていないのでは?と勘繰る傾向があります。複数の候補がいた場合でも1週間を目安に結論を出した方が望ましいと考えます。

 

【給与問題】定期昇給の注意点とは?

労働者目線では、給与の気になる部分の一つとして昇給があります。逆に歯科医院目線で忘れてはならないのは、定期昇給などを導入するにあたって、以下の視点が大切です。

・どの程度の金額であれば昇給し続けられるのか?
・その昇給システムは労働者の意欲向上に繋がっているのか?
・意欲向上に繋げるために他に選択肢はないのか?

魅力的な求人であることをアピールするために、求人票に毎年1回実施する定期昇給を記載することや、就業規則や給与規定にも同様に記載するようにしたとします。求人票への記載はそれが採用後の絶対的な条件とまでは言えませんが、少なくとも申し込みをする誘因にはなります。よって、求人票へ記載したものの経営的に困難となった場合には本人への説明が必要です。

また、就業規則や給与規定に記載している場合は、就業規則の最低基準効が働き、記載されている内容が最低条件となってしまい、それを下回ることができなくなります。就業規則等を変更する場合には不利益変更と評価されないために、変更に至る必要性の説明をはじめ、代替措置や猶予期間の設定などクリアしなければならないハードルは低くありません。 

次に労働者目線として、給与上の満足感は長続きしない半面、給与上の不満は長続きするという特徴があります。よって、昇給では(安定的な経営ひいては雇用を守る意味でも)あまり無理をしないという視点が大切です。また、定期昇給は「諸刃の剣」とも言え、頑張っても頑張らなくても毎年一定額が昇給するとも揶揄されます。よって、本当に就労意欲につながっているのか?という視点は重要です。ゆえに働きぶりを見て評価し、かつそれを労働者にフィードバックするという運用も一案と考えます。

 

【副業問題】確認すべきこととは?

歯科医院が本業先として、空いた時間で副業するというニーズも高まっています。現在の法律(労働基準法)では事業場が異なる場合(例えば本業先であるA歯科医院とBクリニック)でも労働時間は通算されます。その場合、原則として後から契約した事業所が割増賃金の支払い義務を負います。問題は歯科医院へフルタイマーとして応募してきた労働者が、以前から契約を締結していた事業所があった場合(例えば学生時代から続けていた学習塾の臨時的なアルバイト)、後から契約は歯科医院ということになってしまいます。

これを防ぐために、採用時に副業の実態を把握する調査書を取得しておくなどの対応が考えられます。割増賃金は1日8時間、1週間で40時間を超えた場合に支払うことが義務付けられています。かつ2020年4月に労働基準法が改正され、旧来割増賃金の時効が2年であったところ5年(当分の間3年)に延長されました。

労働時間の通算規定で送検までされたケースは稀ですが、今後は働き方や契約形態の多様化が促進されていくこととなりますので、適切に管理しておくことでマイナスにはならないと考えます。

 

最後に

今回ご紹介した歯科医院に特化した(労務リスクに対する)リスクヘッジ策はあくまで一例です。前提条件として複数の選択肢があること、かつ初期動作は早めに行うことなどが問題を肥大化させないための大切な視点です。

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