定期健診に通ってもらうために歯科医院ができること 〜後編〜
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2021.09.10

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定期健診に通ってもらうために歯科医院ができること 〜後編〜

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前編では、日本における歯科の現状から予防への需要が増していることや、生涯健康な歯を残すために定期健診が重要であることをお伝えいたしました。今回は後編として、定期健診に通う方に共通する特徴や、定期健診に通わない方の受診を阻む要因を探りながら、定期健診に通ってもらうために歯科医院には何ができるか、具体的に考えていきたいと思います。

>前編「歯科の定期健診はなぜ必要?定期健診に通っている人はどのくらいいる?」はこちらから

 

トピック

定期的に通う人とそうでない人の違い

定期健診に通ってもらうために歯科医院ができること

 

定期的に通う人とそうでない人の違い

前編では、日本において全体の1/2から2/3の方がまだ定期的な歯科受診をされていないことがわかりました。では、定期的に歯科受診をする方とそうでない方の違いはなんでしょうか。過去の調査・研究から、歯科医院の定期受診に関係する要因がいくつか明らかになっています。

日本歯科医師会の調査*6では、定期的に歯のチェックを受けている者にその理由を聞くと、「安心できるから」が最も多く、「歯周病やむし歯などの予防ができるから」や「年をとっても自分の歯を残したいから」という回答も多くみられました。定期チェックを受けている人は、歯を健康に保つことや、歯科疾患の予防を意識して受診していることがわかります。

少し話題は変わりますが、「歯科口腔保健の推進に関する法律」に基づく基本的事項の中間評価報告書では、「成人期以降においても、地域や職域の取組を活用し、定期的な検診の受診促進のための取組を推進する」と述べられています*8

ここで、「成人期以降」とある理由を考えてみたいと思います。日本における歯科の法定健診の体制は、1.6歳・3歳健診、学校歯科健診(毎年)、歯周疾患検診(40・50・60・70歳)が主なものとなっており、高校卒業以降、多くの人にとって歯科健診を受けるためには、自主的に歯科医院に通う必要があります

高校卒業以降健診機会が減る

自主的に歯科の定期健診に行くかどうかについては、歯の健康に対する意識やモチベーションのほかにも、現実的には時間や費用の負担も影響すると考えられます。次に、定期的な歯科受診と社会的要因の関わりを調べた研究をご紹介します。

この研究では、定期健診の有無と、患者さんの特徴や支払い意思の関係について調べられています。患者さんの職業別でみると、公務員が最も定期的な健診を受けており、会社員で不定期受診者の割合が高い*9という結果でした。また、対象者の60%以上が、定期健診の費用が2,000円以下であれば支払ってもよいと回答しました。しかし、世帯収入との関連では、統計的に有意な差は見られず*9、歯科定期健診の受診と収入とは関係しないことが示唆されました。

会社員で定期受診が低いことや、2,000円以下を希望する者が多いことから、「定期的な歯科受診に対する費用や時間」が受診を妨げる大きな要因となっていることが考えられます。

会社員の定期受診率が低い

もうひとつ、患者さんの目線から定期的な歯科受診者とそうでない者を比較したWEB調査をご紹介します。

定期歯科受診をしている人が通う歯科医院の特徴として、リラックスできる環境や、信頼できる歯科医師や歯科衛生士とよく話ができること、丁寧な対応・説明があること等が挙げられました*10。また、定期歯科受診の有無と保健行動の関係では「身近に定期歯科受診者がいる」ことがもっともオッズ比が高く*10身近な人の口コミや習慣が定期受診行動に影響を及ぼすことがわかります。

信頼、丁寧、リラックスが共通キーワード

さらに、最近の研究で「歯科健診行動は、個人的要因だけでなく歯科医院側の要因によっても決まる」ことがわかってきました。この研究は、8020推進財団が2014年に実施した全国規模(対象1,181医院、患者12,139人)の調査データを用いた研究です。結果からは、定期歯科健診の受診行動に関連する歯科医院側の要因として、歯科衛生士数が多いこと、歯科衛生士専用ユニットがあること、歯科保健指導の時間が長いことの強い関連*11があることが示唆されました。さらに、「患者が定期歯科健診を多く行っている歯科医院に移ると、定期健診を受診するようになる確率」は1.69 倍に増加する*11ことも明らかになっています。

この結果から、定期歯科健診の受診を促すためには、歯科衛生士を複数人確保することや専用ユニットの設置、TBI等の時間をしっかり確保することが重要だとわかります。

 

参考文献


*6 公益社団法人日本歯科医師会:2020年 歯科医療に関する生活者調査 Part1Part2
*8 厚生労働省:歯科口腔保健に関する最近の動向(令和2年2月7日)
*9 Y Tamaki, Y Nomura, K Teraoka, F Nishikawara, M Motegi, A Tsurumoto, N Hanada:Characteristics and willingness of patients to pay for regular dental check-ups in Japan. Journal of Oral Science 46(2):127-133, 2004.
*10 石田 智洋, 安藤 雄一, 深井 穫博, 大山 篤:Web調査による定期歯科受診の要因 : 受診者と歯科医院の特性. 口腔衛生会誌 62(4):365-375, 2012.
*11 Inoue Y, Shimazaki Y, Oshiro A, Zaitsu T, Furuta M, Ando Y, Miyazaki H, Kambara M, Fukai K, Aida J:Multilevel Analysis of the Association of Dental-HygienistRelated Factors on Regular Dental Check-Up Behavior. Int J Environ Res Public Health 18(6). 2021.東京医科歯科大学プレスリリース


 

定期健診に通ってもらうために歯科医院ができること

ここまで見てきた定期的に歯科健診に通う方とそうでない方との違いから、定期健診に通ってもらうために歯科医院ができることを整理したいと思います。

①歯科医院の要因

歯科医院の設備面で工夫できる点としては、リラックスして定期健診を受ける空間を提供するために、治療と予防の空間を分けたり、予防個室のユニットやインテリアをくつろげるものにすることなどが挙げられます。

また、患者さんとのコミュニケーションでは、丁寧な対応や説明を心がけることはもちろんですが、ある程度人員や診療時間に余裕を持ち、次の診療に追われているような雰囲気を感じさせないことも大切です。

さらに、予防歯科や定期歯科健診を重視した歯科医院を効率的に運営していく上で、ひとつのキーである「歯科衛生士」の確保が重要だと考えられます。就業歯科衛生士数は2018年時点で132,635 人*12で年々増加しているものの、雇用形態としては、常勤者56%・非常勤者39%*13というデータもあり、ライフステージによって働き方が変化することが考えられます。特に子育て層では夕方以降や休日の勤務が難しい場合が想定されますが、定期健診の受診率が低かった会社員の受診を促すには、受診しやすい時間帯(夕方以降や休日)に対応できる歯科衛生士を確保することが必要と思われます。まずは、歯科衛生士が働きやすい柔軟な勤務形態を整備したり、各人のスキルアップをバックアップする等、無理のない範囲でできることから始めてみてはいかがでしょうか。

②患者さんの要因

患者さん側の要因として、年齢や職業によって定期健診の受診状況が違うことがわかりました。この理由として、高校生までは毎年歯科健診の機会がありますが、高校卒業以降は自主的に歯科健診に通うことが必要なこと、仕事等で受診時間の確保が難しいことが影響していると考えられます。

また、歯科定期受診と収入との関連はみられなかったものの、身近に定期健診に通う者がいるかどうかが影響していること、適切な費用として2,000円以下とする者が多いことがわかりました。このことから、歯の健康を保つことが全身の健康にも繋がること、歯科治療を繰り返すと負のスパイラルとなること、そして、セルフケアには限界があることなどを周知し、時間や費用をかけても予防を目的として定期的に歯科医院に通う価値があることを理解してもらうことが必要です

大切なのは定期健診の継続

さらに、定期健診に通ってもらう上で忘れてならないのは「継続」です。

大学病院の定期歯科受診者を対象とした継続群と中断群を比較した調査からは、口腔関連QOLが低い者は定期歯科受診を中断する傾向があること、定期歯科受診に対して「安心」または「気持ちよい」と感じている者は受診を継続する傾向にあることがわかっています*14。このことから、定期健診を継続して受診してもらうには、日常生活で悩んだり不便に感じている点をきちんと解決に導くことや、安心して気持ちよく定期健診を受けてもらう工夫が必要だということがわかります。

定期的な受診によって自身の抱えていた課題が解決し、心地よい受診体験ができれば、きっと継続への強いモチベーションに繋がるでしょう。

>「ジニー」には、スタッフに負担をかけずに患者さんの中断を防ぐ仕組みがあります

>メンテ・定期検診の患者さんが前年比40%増加した大和駅前歯科様の事例

 

参考文献


*12 厚生労働省:平成30年衛生行政報告例 結果の概要
*13 公益社団法人日本歯科衛生士会:歯科衛生士の勤務実態調査報告書(令和2年3月)
*14 杉浦 剛, 岸 光男, 相澤 文恵, 阿部 晶子, 南 健太郎, 稲葉 大輔, 佐藤 一裕, 米満 正美:データマイニングの手法を用いた定期歯科受診者の受診中断に関わる要因の分析. 口腔衛生会誌 61(2):225-232, 2011.